
病室に入ると、すっきりした顔のすぎやんが、ベッドで体を起こしていました。
入院以来ずっと続いていた持続点滴も、鼻のチューブもなくなっていました。重湯やけどご飯が食えるようになった、便もちゃんと出始めたと、機嫌よくしゃべっているすぎやん、先日の喧嘩のことは一言も言いません。
すぎやんが目下の所一番喜んでいるのが、施設のスタッフ達が頻繁に見舞いに来て下さること。後日、見舞いに来てくれたスタッフの一人から、こんなことを聞かされました。
「『娘と喧嘩した』って、言うたはりましたよ」
「あ、そうですか。恥ずかしいですわ」
「喧嘩したらあかんやん、って言いましたら、『わしがいらんこと言うから、怒らしてしまうんや』っておっしゃってました」
こんな風に喧嘩ばっかりしているのに、施設内ではなぜか「仲のいい親子」と見られているみたいです。父と娘があほなことを言い合っているというのが、珍しいのかもしれません。