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2009年1月6日のすぎやん

昼過ぎに病院から電話がかかってきました。

「状態があまりよくありません。なるべく早く病院に来てあげて下さい」

来るべき時が、来たのかもしれない。

今晩は病室での泊まり込みになるかもしれないと予想し、仕事も済ませ、洗面セットなどを準備して、午後3時過ぎに病院に入りました。

補給されている酸素量は、最大の10リットル。前日までは鼻にセットされているだけでしたが、口に大きめのマスクが装着されていました。
しかし、たくさんの酸素が補給されているにもかかわらず脈拍も早く、SpO2(体内酸素量)の数字は常時80台。
健康な人だと100近くの数字が平均値なので、明らかに低い状態です。

前日はずっと寝込んでいましたが、この日はすぎやんはずっと意識がありました。
私の顔を見て、マスク越しにもごもごとしゃべっているのですが、何を言っているのか全く聞き取れません。

荒い息遣いで、まさに必死で呼吸している感じです。
つらくて体の持って行き場がないようで、頭を左右に振ったり、ベッドサイドの柵を持とうとしたりして、常に体を動かしています。
そして、時々マスクを取ろうとします。

「はずしたらあかん。はずしたら死んでしまう」と声をかけながら、またマスクをかけるという繰り返しです。

しばらくすると、主治医が病室に入って来られました。
「頑張りましょうね」と声をかけられたすぎやんは、何とかうなづいていました。

「状態が悪いですね・・・酸素量も全然足らないし・・」

主治医はそうおっしゃり、私を別室に案内して、宣告されました。

前日からさらに容態が急変し、全身状態が非常に悪く、もう手の施しようがないところまできていることを。

今日、明日が山であるということを。

「酸素もマックス値の10リットル入れているんですが、全く足りない状態です」

もうたぶん、すぎやんは夜を越すことはできない。

「今晩は、ここにいた方がいいですね?」
「そうですね」

私の質問に、主治医は即答。

病室宿泊決定。

部屋に戻ると、すぎやんは相変わらず苦しそうですが、先ほどと特に様子は変わっていませんでした。
そこで、病院1階にある売店に行き、もしもの時に備えての、男物の寝間着(ゆかた)を購入。ついでに、夜食用のパンも買いました。

それからは、病室ですぎやんを見守る時間が過ぎていきました。

すぎやんは時々、私の顔をじっと見つめます。
巡回してこられる看護師さんに声をかけられると、何とか答えようとしている様子が見られますが、もうあまり力がありません。

まさに分単位で、徐々にすぎやんの状態が悪くなっていきます。
ベッドサイドの監視モニターに表示されているSPO2の数値が80を切ると、低い音で警報音が鳴ります。
その警報音が鳴る時間が、だんだん長くなっていきます。

これは、今晩どころの話ではないかもしれない。

考えたあげく、私はデイルームに行き、すぎやんが暮らしていた施設に電話して、施設長さんを呼んでもらいました。
運良く、まだ事務所におられました。

私は施設長さんに現状をお話しし、もしものことがあった場合、病院からすぎやんが暮らしていた部屋に戻ることはできるかどうか、聞いてみました。
でも予想通り、「それはできません」というお答えでした。

「入院中ではなく、施設内でお亡くなりになった場合には、何とでもしようがあるんですけど・・・」

さらに、施設の裏手にある公民館で、地元の方が葬儀を行っているかを見たことがあるかを確認すると、「もともと使用時には予約が必要だし、そういう葬儀をやっているのを見たことがない」とのお答え。
仕事中のスタッフでも気軽に参列してもらえるような葬儀は、やはり無理なようです。

施設の部屋に戻りたがっていたけれど、仕方がない。後は葬儀屋さんとの話だ。
そう思って電話を切ろうとすると、施設長さんが質問してこられました。

「あの、まだ病室におられるんですか」
「はい、今日は泊まるつもりです」
「・・・僕、これからそちらに行きます。すぐ事務所を出ます」

電話を終えて病室に戻り、椅子にくずれるように座ると、モニターから再び警報音が鳴り出しました。
モニターを見ると、脈拍が40台。

びっくりしてすぎやんを見ると、ものすごく苦しそうな様子です。

私の体は固まってしまい、声も出ません。
ナースコールを押すのが精一杯でした。

どたばたと数人の看護師さんたちが走ってこられ、すぎやんの名前を何度も呼びながら対応しておられます。

そうこうしているうちにどんどん脈拍は下がり、とうとうゼロになりました。

私はもう体が固まってしまって、身動きが取れません。

ふたりの看護師さんが様態を見ながら、主治医にも連絡を取っておられます。
そのうちのおひとりが、半ば呆然と突っ立っている私に声をかけてこられました。

「お耳は聞こえておられます。ですから、そばで声をかけてあげてください」

その言葉でようやく体が動き、私はベッドのそばに行き、すぎやんの肩や腕のあたりを軽く叩きながら、「大丈夫、大丈夫?」と声をかけ続けました。

私の「大丈夫?」に、すぎやんは、確かに「大丈夫」と答えてました。
涙がこぼれました。

すぎやんは数秒に1度呼吸をするような感じで、首を絞められた時に出すような苦しそうな声を出しました。

もう自分でも何を言っているかわからなくなってしまいましたが、「つらい思いさせて、ごめんな」と、声をかけたような気もします。
でも、もう十分頑張っているすぎやんに、「頑張れ」という言葉はかけられなかった。かけちゃいけないと思った。

記憶にあるのは、「大丈夫、大丈夫やから」と言い続けたこと。
そして、「もうすぐ施設長さんが来てくれる」と声をかけ続けたこと。

実はすぎやん、この施設長さんのことが、本当に大好きでした。
彼が施設長就任前、まだ介護スタッフとして走り回っておられた頃、すぎやんは彼の後をついて回り、何かとちょっかいを出し、とてもかわいがっていました。
施設スタッフの中でも、彼の存在は別格でした。

施設長さんが来ると言い続けているうちに、一旦はゼロになったすぎやんの脈拍が、徐々に上がり始めました。
やがて正常値になり、さらに100を超える値になりましたが、何とか再度呼吸を始めたのです。
血圧を上げるための注射もされました。

ただ、看護師さんがライトを使ってすぎやんの目の動きをチェックされていましたが、

「どうですか?」
「反応が、ありませんね・・・」
「この状態から蘇生する人はいるんですか?」
「・・・まれにおられますが、ほぼ、おられませんね・・・」

それでも病室内は、ほんのつかの間、落ち着きました。
看護師さんは、「どこかご連絡しなければいけないところがあれば、すぐされた方がよいです」とおっしゃいました。

もう間に合わないとは思いつつ、ちょくちょく施設まで来てくれていた、私の従姉(父の姉の子供)に一報を入れました。

しかしこの日の午後、闘病中だった彼女のご主人も、ガンでお亡くなりになっていました。

それ以外には、強いて知らせなければならないような親戚もいません。

それからしばらくすると、施設長さんが到着されました。
彼の顔を見た瞬間、「ああ、間に合った」と言ってしまった私。

「さっき、心停止したんですけど、施設長さんが来るって言ってたら、持ち直したんです」

その時点で、彼の目は、うるうるしていました。
一生懸命、すぎやんに声をかけて下さってました。

そして。

すぎやんはまもなく、痰が絡んだような呼吸をし始めました。
そして脈拍が再びどんどん下がり、あっというまに顔中に黄疸が広がりました。

「痰、取れないんですか?」
「何とか、痰を」

私と施設長さんがそばにいた看護師さんに伝えましたが、看護師さんもつらそうです。

「でも、これ以上さらにつらい思いをさせてしまうかも」

そう言いつつ、看護師さんは「すぎやん、痰を取ろうか? 我慢できる? 大丈夫?」と声をかけられましたが、痰を取る間もなく、脈拍は急降下。

そんな中、主治医が入室。
主治医は、じっとすぎやんを見つめています。

瞳孔チェックをされていますが、もう何の反応もないのでしょう。心臓マッサージなどをされる気配は、全くありません。
そして主治医は、私に視線を向けました。

「一生懸命呼吸しようと試みてますが、もう瞳孔の反応もありません。マスク、はずしてみましょうか」

酸素マスクがはずされた瞬間に、ベッドサイドのモニターのグラフは、すぐにまっすぐになってしまいました。
マスクから補給されていた酸素がかろうじて反応していただけで、もう自力呼吸はしていなかったのでしょう。

それを確認後、先生はポケットから取り出した院内用ハンディフォンに表示された時刻を見ながら、宣告されました。

「1月6日午後6時45分、死亡確認とさせていただきます」

私は「ありがとうございました」と、一礼。

すぎやんが、とうとう、力尽きました。






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