
すぎやんは、普段は部屋のドアをロックしていません。ですから、私はいつもノックをしながらドアを開けて部屋に入ります。でもこの日はドアが開きません。ノックをしながら「開けて〜」と声を掛けました。
私だとわかってドアを開けてくれたすぎやん、機関銃のような口調で愚痴り始めました。
何でもこの日、ノックも何もなしで、勝手にドアを開けてよその部屋の入所者さん(認知症の女性)が入ってこられたので、ロックしていたとのことでした。
「びっくりすんぞ。油断しとったら、ぬーっと入ってきよる。それもわしの部屋ばっかりや。あいつら、ぼけてるいうけど、絶対わかっとんぞ」
「そうやないで。隣が風呂やろ。トイレもあるし、この部屋、角部屋やし。入りやすいんや。そやからきっと、間違えるんやで。この部屋がすぎやんの部屋や、なんて、絶対意識したはらへんで」
本心は、ドアにロックなどしたくないすぎやん。
ぶいぶいぶいぶいと怒りまくっています。
「認知症っていうのは、一種の病気やねん。誰もわざと部屋に入ってきたはるわけとちゃうんやから。だから、ドアに鍵かけとき。それやったら、入ってきはらへんやろ」
「そやけど、わしかて、たまには寝ころびたい時もあるやんけ。その時鍵をかけとって、職員がきよったら、困る」
「だから、前もって言うといたらええやん。寝ころぶから鍵があけられへん、って。それに、事務所に部屋の鍵があるんやから、ほんまに何かあったら、それ使ってあけはるから。鍵かけといたら、入ってきはることはないんやから、いらいらせんでもええやん」
すぎやんの興奮がある程度治まるまで、10分以上はかかりました。
その後、きちんと巻かれた包帯が目に入りました。スタッフが巻いてくれているのだと思いこんでいたのだが、
「これ、わしが巻いた」
「え、ほんまに?」
「片手やから大変やぞ。この施設でこんなことできるん、わしだけや。職員もほめとった」
「・・・自慢するなぁ。でも見せて」





足の間に包帯を挟み、きつくかっちり巻いていきます。私としゃべりながらでも、5分もかかりません。できあがった時、思わず拍手。匠の技です。
絶賛すると、すぎやんはちょっと鼻の穴をふくらませていました。
JUGEMテーマ:それでも続く日々……の中で。